先日、矯正歯科医としてとても興味深いニュースを目にしました。
中国・成都ジャイアントパンダ繁殖研究基地で飼育されているジャイアントパンダ「北侠(ベイシャー)」に対して、人の矯正治療の考え方を応用した顎の矯正治療が行われたというニュースです。
ベイシャーは誕生直後に顎を負傷し、その後の成長とともに下顎が左側へ偏るようになりました。
単に顔が左右非対称になっていたというだけではなく、顎のずれによってミルクをうまく飲めず、栄養をとることにも問題が生じていたそうです。
そこで成都ジャイアントパンダ繁殖研究基地と四川大学華西口腔医院のチームが協力し、成長途中の顎をより良い方向へ誘導する矯正治療が行われました。
約半年間の治療によって顎の偏りは大きく改善し、噛むことや飲み込むことも正常にできるようになったと報じられています。現在は通常通り食事をとり、健康に生活しているそうです。
動物でも「見た目」だけのために矯正するわけではありません
今回のニュースで特に興味深く感じたのは、動物に対しても、単に見た目を整えるためではなく、きちんと食事をとり、健康に生活できるようにするために矯正治療が行われているという点です。
ベイシャーの場合も、顎が左にずれているという外見上の問題だけで治療が行われたわけではありません。
顎の位置関係がずれたことで、ミルクを飲むことや食べ物を噛むこと、飲み込むことにまで影響が出ていました。
動物にとって「食べる」ということは生きていくうえで欠かせない機能です。その機能を回復させるために矯正治療が選択されたという点は、とても興味深い症例だと思います。
人の矯正治療も、歯並びをきれいにするだけではありません
矯正治療というと、
「歯並びをきれいにする」
「出っ歯を治す」
「口元をきれいにする」
といった見た目の改善をイメージされる方が多いと思います。
もちろん、見た目を改善することも矯正治療の大切な目的です。
しかし矯正治療では、それだけでなく上下の歯や顎の位置関係を整えることで、しっかり噛めるようにすること、食べ物を適切に咀嚼できるようにすることなど、口の機能を整えることも重要です。
今回のパンダの治療を見ても、動物であっても人であっても、「きれいに見えるか」だけではなく、「きちんと食べられるか」という視点が大切なのだと改めて感じます。
成長期だからできる矯正治療もあります
今回の治療でもう一つ興味深い点が、「成長している時期」を利用して治療が行われたことです。
人の小児矯正でも、子どもの成長を利用しながら上下の顎の位置関係や噛み合わせを改善していくことがあります。
子どもの顎はまだ成長途中です。そのため、成人して成長が終了してからでは難しい治療でも、成長期であれば顎の成長を利用できることがあります。
ただし、ここで注意したいのは、
「子どもだから早く矯正を始めればよい」
というわけではないことです。
歯並びや噛み合わせの原因が歯にあるのか、上下の顎の骨格にあるのか、これからどのような成長が予想されるのかによって、治療を始める適切な時期は変わります。
特に受け口や開咬など、顎の骨格が大きく関係する症例では、成長とともに噛み合わせが再び変化することもあります。
そのため、早く治療を始めることよりも、その子にとって適切な時期に必要な治療を行うことが大切です。
当院では成長を見ながら治療時期を判断しています
いぬやま矯正歯科でも、お子さんの矯正相談では、現在の歯並びだけを見て治療を決めることはありません。
上下の顎の位置関係、永久歯の状態、永久歯が生えてくるスペース、現在の噛み合わせ、今後予想される顎の成長などを総合的に確認します。
早い時期に治療するメリットが大きい場合には一期治療をご提案しますが、すぐに治療する必要がない場合には、半年程度の間隔で成長や歯の生え変わりを確認しながら、適切な治療時期を待つこともあります。
今回のパンダの治療はもちろん非常に特殊な症例ですが、
「成長をどのように治療に利用するのか」
「見た目だけではなく、食べる・噛むといった機能をどのように改善するのか」
という点では、人の矯正治療にも通じる非常に興味深いニュースだと感じました。
お子さんの歯並びや噛み合わせが気になる場合には、「今すぐ治療した方がよいのか」「しばらく成長を見てもよいのか」ということも含めて、矯正歯科で一度確認してみることをおすすめします。
参考記事
ジャイアントパンダ「北侠(ベイシャー)」の矯正治療については、こちらの記事でも紹介されています。
ライブドアニュース/Record China
「世界初! 成都の『顔がゆがんだパンダ』が歯科矯正に成功―香港メディア」(2026年9月20日)
https://news.livedoor.com/topics/detail/32375570/

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